公務員のミスを担当職員個人に弁済要求は違法?国家賠償法”求償権”とは

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兵庫県庁の貯水槽で約1ヶ月排水弁の閉め忘れが発生し約600万円の水道代が発生した件で、井戸敏三知事は「職員のミスによるもの」と説明した上で約300万円を担当職員に負担させたと公表しました。

これを受けてネット上では「業務上のミスを職員個人が負担するのはおかしい」「いくらなんでも負担額がでかすぎる」「ダブルチェックをしなかった、組織全体の管理制度が悪いのでは?」と批判が続出。

実際私もこのニュースを知って「ミスをした本人に負担を要求するのは分かるけど300万円はやりすぎじゃない?」と感じました。

そこで、今回は

  • 公務員がミスした時に担当した職員に弁償要求ができるのか
  • 弁償要求ができるのはどんな時か
  • 個人が弁償する負担割合はどう決めるのか

について調べてみました。

公務員が悪い事をしたら登場する国家賠償法とは

憲法第17条では、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と定められています。

この「法律の定めるところにより」という部分を具体的に規定したものが国家賠償法です。

国家賠償法 第1条

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

つまり、公務員がミスをして住民や国民に損害を与えた時はその公務員が所属する政府や都道府県が賠償する責任を持つというもの。

しかし公務員のミスをすべて自治体などが賠償するわけではありません。

ミスした公務員本人に賠償を求める”求償権”とは

公務員のミスに対してすべて個人弁済を求めると、給料と責任が釣り合わず誰も公務員になりたがらなくなります。そのため、国家賠償法ではミスした公務員が悪かった場合にのみ弁済を求められるようになっています。

国家賠償法 第1条第2項

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

これは「ミスした公務員がわざとやった、とんでもなく不注意だった場合はミスした公務員本人にその自治体などは賠償するよう要求できる」ということです。

求償権は住民からの損害賠償請求を自治体が受け入れ、そこにかかった損害のうちいくらか公務員本人に負担するよう求めることです。

本来であれば住民→公務員本人になるところを住民→自治体→公務員本人と公共団体が間に入るため、仕組みとしては立て替え払いに近いですね。

兵庫県庁の多額水道代支払い命令で考えると

兵庫県庁で起きた貯水槽の排水弁閉め忘れ事件は以下のとおり。

 県によると、閉め忘れがあったのは、神戸市中央区の本庁舎西館の貯水槽(貯水量約15トン)。令和元年10月初め、委託業者の年1回の点検後に閉め忘れがあり、約1カ月にわたりそのことに気づかなかった。  

 点検に立ち会った50代の男性職員が「あと(のチェック)は私が行う」と業者を帰しながら、排水弁を閉め忘れていたといい、県は職員の責任は重いと判断。昨年11月に訓告処分にするとともに、裁判例などをもとに県が半額について職員個人に賠償を請求し、同年内に約300万円を支払った。

産経新聞 多額水道代で担当職員が300万円支払い 兵庫県知事「おわびする」(2021/2/8配信)

今回の件でポイントになるのは、

  • 職員が水道の委託業者を先に帰した上で排水弁を閉め忘れた
  • その水道代が約600万円余分にかかった
  • 水道代の支払いは税金によるもの

ということです。

通常の水道料金は2ヶ月平均で約200万円であり、今回の閉め忘れで半年分の水が無駄になった挙句に料金がかかったのです。

当然兵庫県がその600万円を負担しますが、「自分でやると言って業者を帰したのに忘れてしまった」ことは重過失にあたると判断されました。そのため、兵庫県はその男性職員に600万円のうち半分の300万円を求償したということになります。

ミスした公務員の負担割合はどう決めるのか

国家賠償法では国や自治体は住民などに与えた損害の原因が公務員の故意・重大な過失によるものであればミスをした本人に弁償を要求する”求償権”を持ちます。

ですが、例えば悪意を持っている場合は故意に該当するためわざわざ公務員の身分を保障してまで求償権が使われることはありません。普通に懲戒免職や刑事訴訟になります。

そのため、国家賠償法による公務員への求償権行使は前例がほとんどありません

さらに、国家賠償法では公務員本人への求償権が認められていますが、負担割合については言及がないため規定されていません。

過去にあった判例では、1990年(平成2年)税務課長の重大な過失により損害賠償金1億2000万円の支払いを命じられた町が、その税務課長に求償権の行使を求めて裁判を起こし、税務課長は8割(約9571万円)負担を命じられました。

今回の兵庫県庁貯水槽閉め忘れによる損害金は約600万円であり、割合でいうと5割です。仮に排水弁を閉め忘れた男性職員が不当であると裁判を起こした場合、8割負担(480万円)を命じられる可能性があるため、裁判に発展する可能性はなさそうです。

まとめ 今回の300万円負担はむしろ温情

公務員が業務中のミスで住民などに損害を与えた場合、住民らは国家賠償法にもとづき国や地方自治体への損害賠償請求を行うことが出来ます。

しかしそのミスの原因が公務員の故意や重大な過失によるものである場合に限り、国や地方自治体はミスをした公務員本人へ賠償を求める”求償権”を持っています。

ただ、故意による損害の場合国や地方自治体は求償権を行使するのではなく懲戒免職にしてから刑事訴訟などを起こすため、求償権が使われることは少ないのが現状。

1990年に発生した類似例では裁判で8割負担を命じられたことを考えると、今回の兵庫県の男性職員への5割負担300万円の賠償はむしろ温情と言えます。

ただし、今回の事件はダブルチェックやしっかりとした管理体制があれば未然に防げたものです。兵庫県知事は確認回数を増やすなどの対策を取ると言っていますが、組織管理上の問題でもあったのだから職員個人に300万円の賠償請求ではなく、その上司にあたる職員や知事などの管理側にも賠償請求が行われるべきだと感じました。

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