京急川崎事故、トラック運転手の責任は?損害賠償はされる?

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9月5日午前11時40分頃、 横浜市の京急線の踏切で電車とトラックが衝突し、死者1名、負傷者33名という痛ましい事故が発生しました。
事故から数日経ち現場付近の状況も分かってきたので、トラック運転手の過失や賠償、その請求先などについて調べてみました。

今回の事故の概要

事故があったのは京急線神奈川新町第一踏切(横浜市神奈川区)で、この踏切には警報機と遮断機がありました。その踏切で立往生してしまったのが千葉県香取市の運送会社社員が運転する13トントラックです。

トラック運転手が線路沿いの細い道路で運転に困っていたところ、休憩中に偶然付近を通りかかった京急職員2名が左折しようとするトラック運転手の頼みで後方確認を手伝っていました。

しかし左折できず、トラック運転手が断念したことから職員2名は現場を立ち去ろうとしました。ところがトラック運転手が踏切音が鳴っていたにも関わらず線路に進入する形で右折した為、職員2名は非常ボタンを押しました。

その後遮断機が下りた後、踏切内に30センチ以上の障害物を感知すると異常を知らせる警報機がトラックを検知。また非常ボタンも押されたことにより非常事態を知った電車の運転手は手動による非常ブレーキを操作したものの衝突が起こってしまいました。

この電車は8両編成の快特電車で当時は時速120キロで走行していました。衝突した後は先頭から3両目までが脱線、大型トラックは大破し炎上を起こしました。
トラック運転手の本橋道雄さん(67歳)は死亡、乗客など35名が負傷するという大事故となったのです。

トラック運転手の過失は?未然に防げた事故

                                  NHK NEWS WEBより引用

神奈川新聞によりますと、大型トラックは踏切に進入した際、荷台部分に遮断機が接触したにも関わらず強引に前進を続けたことが分かっています。

監視カメラには運転席部分だけが入った状態で1.2分停止する様子が映っていました。その後徐々に進入する際に遮断機が下りて荷台に当たるもそのまま前進。車体全体が踏切内に入った後も数秒停止し、動き出した直後に電車と衝突したそうです。

本橋さんが通行した線路沿いの側道は、会社が教えたルートとは違っていたといいます。本橋さんが道を間違え、高さ2.8メートルまでの制限があるアンダーパスを避ける為(トラックは高さ約3.8メートル)に迷走した後に広い国道15号へ出る為に踏切を渡ったようです。

慣れない道での運転であり大通りへ戻りたい焦りがあったとはいえ、遮断機が鳴っても強引に線路内に進入したのは許されないことであり、本橋さんの過失は間違いないでしょう。

県警は6日、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで本橋さんの勤務先である金子流通サービス(千葉県香取市)を家宅捜索し、運転日報など60点を押収。勤務状況や運行ルートを含めて事故の原因を調べています。

死亡したトラック運転手の責任は?

警報機の鳴っている、遮断機の下りている踏切に進入したことによる道路交通法違反。
衝突して破損した車両の修理代金。
事故によって破損した踏切や周囲の電柱等の修理代金。
衝突によって立往生した乗客の振替輸送代金。
本来ならば京急が収益を上げていたはずの他の電車を止めてしまったことによる損害賠償。
怪我をしてしまった乗客への治療費。

等、たくさんの違反と賠償が本橋さんには課せられます。
しかし本橋さんはこの事故で死亡しており、そうなると実際に起きた損害をどう処理していくのでしょうか?

金子流通サービスと京急は示談が有力?

民法715条に「使用者等の責任」という規定があります。
これは会社等の他人を使用して事業を営む者は、それによって利益を得ている為、事業に生じる損失も負担すべきであるという考えです。(報償責任原理)
つまり会社は社員の労働によって利益を得ているので、社員が起こした問題の責任は会社で負いましょうねということです。

今回の事故でも本橋さんは業務中であり、会社の使用者等の責任はあるといえます。その為京急が受けた損害を請求する相手は、トラック運転手の本橋さんではなく勤務先の金子流通サービスということになります。

そして鉄道と自動車、もしくは人との事故にあたって裁判が起こされることは少なく、ほとんどは示談によって和解が成立します。
その理由として鉄道会社が受けた損害全てを裁判でもって請求したとして、満額受け取れる可能性は低いからです。
訴えられる会社としても、裁判になる前に示談で済むならばと払える範囲内で応じる為、実際に訴訟まで発展するケースは少ないようです。(ゼロではありません)

具体的な計算は損害の全貌が明らかになり、また過失割合が定まってからにならないと分かりませんが、被害状況だけを見ると億単位の損害賠償が発生することは確かでしょう。

運送会社から従業員への請求は?

民法715条3項では求償権という言葉が出てきます。
何かの損害が発生し、それを相手に賠償した時、その費用の一部を被用者に対して求償出来ると規定されています。

今回の事故に当てはめると、京急が具体的な損害賠償請求を行い、運送会社と示談が成立した後に、金子流通サービスから本橋さんへその費用を支払うよう請求できるのです。

しかし、ただのトラック運転手に億単位の金額を支払えとは言えません。

使用者の被用者に対する求償権の行使は、信義則上相当と認められる限度に制限されるという判決が出ました。(大判昭12.6.30)
この判決では、会社の求償権の範囲を判断する要素を以下のように挙げました。

  • 事業の性格
  • 事業の規模
  • 施設の状況
  • 被用者の業務の内容
  • 被用者の労働条件
  • 被用者の勤務態度
  • 加害行為の態様
  • 加害行為の予防・損失の分散について使用者の配慮の程度

金子流通サービスは運送会社ですので、自社トラックにも自動車保険をかけていることでしょう。その保険金を差し引き、さらに上記を考慮した上で本橋さんへの賠償請求をすることになります。

会社側に非がある等の状況であれば責任を半減、もしくは4分の1に軽減する場合もあります。
本橋さんについて情報がほとんどない中、どれほどの制限を受けるかはわかりませんが…指示したルートと違う道を走ったり、遮断機が下りても強引に線路内へ侵入する姿が監視カメラに残っている以上、被用者に重大な過失あり、と判断されるかもしれません。

本橋さんは死亡。会社は誰に請求するの?

ここで問題となるのは事故を起こした本橋さんが既に亡くなっているということ。死人に口なし、金を払えるわけもなく会社は泣き寝入り…とはなりません。

会社は、死亡した本橋さんの相続人に対して請求できる権利を持っています。

飛び降り自殺した人の遺族に損害賠償が請求されるように、発生した責任は消滅することなく相続人に継がれます。
本橋さんに妻や子がいるかは不明ですが、相続人は亡くなった本橋さんの代わりに金子流通サービスから求償請求を受けることになります。

その支払いを拒む為の方法は一つ、相続放棄です。

本橋道雄さんの資産も負債も何もかも相続しません、と手続きすることによって求償請求から逃れる方法です。

ただし、仮に存在する妻や子が相続放棄したとしても、本橋道雄さんの両親に相続権が移ります。兄弟姉妹がいるなら、その人たち全てが相続放棄をしないと誰かは求償請求を受けることになってしまいます。

終わりに:あくまで京急は被害者

テレビやメディアでは止まれなかった電車が悪いといったイメージの論調が多いですが、時速120キロメートルという速度で走る電車がいくら急ブレーキをかけても停止するまでには時間がかかります。600メートルあれば停まれるというコメンテーターもいますが、単純計算で安全に停まれる距離は計算できないでしょう。

京急はブレーキのタイミング等の事情を考慮して金子流通サービスに損害賠償請求を起こすか、その前に示談が成立するか…展開はまだまだ先のことになるでしょうが、一日も早い復旧を願っています。

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